(令和4年1月19日更新)
わが国は「四面環海」という地理的特性を有し、今も昔も部隊を海外に展開させるためには海上輸送が必要不可欠です。 自らの艦艇で海上輸送を行うことができる海軍とは異なり、建軍の本義上、主として陸上における作戦を担任する陸軍は独自の海上輸送力を永らく保有せず、昭和初期に至るまでその海上輸送は、海軍艦艇や民間からの徴傭輸送船に依存せざるを得ませんでした。 このことは同時に陸軍の部隊運用の即応性・柔軟性等に制約を課すこととなりました。 そこで、陸軍は、昭和初期に至りようやく自前の海上輸送力の保有に着手しました。 それが本書で扱う軍隊輸送船「宇品丸」です。 実は、「宇品丸」以前にも陸軍は小型のタグボートや艦砲の運搬船などは保有していたのですが、部隊や軍需品を輸送するための輸送船は保有していませんでした。 しかし、その後、「海洋戦」とも呼ばれる「大東亜戦争」において陸軍は多数の船舶及び膨大な船舶部隊を運用し、東アジアから太平洋にかけての広大な地域・海域で激しい戦いを繰り広げましたが、その嚆矢となったのがこの「宇品丸」だったわけです。 戦後は、国鉄を経て再び民間貨物船に戻り、今から約半世紀前にその生涯を終えました。 「宇品丸」についてはこれまでも断片的な研究記事が出版物やインターネット等で発表されており、知名度が決して低いわけではないのですが、正確かつまとまったものはなかなか見当たらない状況でした。 そこで、昨今のわが国を取り巻く防衛環境も踏まえ、この時期に陸軍船舶兵の総本山ともいうべき宇品の名を冠し、終戦まで「海の陸軍」の顔として活躍した「宇品丸」について概要を整理したのが本書です。 外国の陸軍はいざ知らず、わが国の陸上防衛力は、海上輸送を抜きにしては島嶼部の国土防衛さえもできないという当たり前の事実を改めて見つめ直し、陸軍種にとっての海上輸送力確保の重要性について考える契機の一つとなれば幸いです。
● 規格: A4版、DVD−R、PDFファイル、一部カラー、112ページ、ケース付き ● 著者: 森下 智 定価: 本体2,000円 (送料:198円)
|
Copyright (C) since 2014 Japanese Society of the History of Imperial Army and Navy